花火

東郷湖畔では七月の水郷祭の夜、花火があがる。
それを見に、池のまわりにはたくさん人が集まってくる。
路上にこしらえられた屋台では、浴衣に着替えた友人たちが、
唐揚げ、たこ焼き、かき氷を売っていた。
それを買って辺りを歩く。
いつもは夫婦として知っている二人が、
今夜はそういう社会から被されるものを脱ぎ捨てて、
花火の下の暗闇のなかへ溶けていった。
他の多くの人たちのなかへ、一人の人と人とに戻って。
その姿は一瞬垣間見えたが、すぐにこちらからはわからなくなった。
湖上では大きな音を立てて花火が開き、わずかの間輝き、消えていく。
たくさんの人たちが、それを見上げていた。
そのなかに、その夜、自分もいた。