2009-01-01から1年間の記事一覧

哲学と人類学

人類学という学問の魅力が、今まであまりよくわからなかった けれども最近、それがやっと少しわかってきた気がする その目指すところは、哲学とそれほどちがわないのではないか、と思っている 哲学は、〈今、ここ〉にいる自分の思考だけを頼りに、人間や世界…

都市の異和感

東京という都市とはいったいどのような場所なのだろうか 眼前に巨大にそびえるその場所にこのような問いかけをすることは あまりに無力で、ほとんど無意味なことなのかもしれない 自分がその中で暮らすその場所は、けれども、時々ひどく異様に映ることがある…

緩やかな契約

鳥の劇場で青年団の芝居を観る機会があった。 鳥の劇場は、鳥取県鹿野町で中島諒さんが主宰する同名の劇団の本拠地となっている劇場だ 今回は平田オリザ主宰の青年団を招致して「カガクスルココロ」と「北限の猿」が上演されていた 青年団の戯曲は暗転を使わ…

最近読んだもの

内田樹さんの『日本辺境論』を買って読んだのだが、 期待しすぎたせいか、内田さんのいうことがだいたい予想がつくようになってしまったせいか、 あるいは自分の考えていることとそんなに違ったことがいわれていなかったせいか、 個人的にはそれほどおもしろ…

日本民藝館

東京で観る美術展にはいつもどこかで不満を感じている その理由のひとつは会場が混みすぎているからだが、他にもうひとつ理由がある。 それは、作品を、それが生み出された土地や気候、そのもとでの生活といった様々な要素から切り離し、その帰結だけをポン…

1984年

台風のせいか、雲が飛行船のようなスピードで空を流れている。 そんな中ちょっと気が向いて、村上春樹について書いてみました。 短いのでたいしたことないですが(少し修正しました)。 『1Q84』という、ひとつの時代をそのタイトルに冠した村上春樹の作品が…

最近読んだ本 (2)

村上春樹との対談本を読んだのをきっかけに、 最近、河合隼雄の書いたものに興味をもっている。 以下は小川洋子との対談 『生きるとは、自分の物語をつくること』 所収の、 小川さんによる後書きからの引用です。 いくら自然科学が発達して、人間の死につい…

最近読んだ本

なにか不意に読みたくなって『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』を図書館から借りてきた。 タイトルのとおり、村上春樹と河合隼雄の対談をおさめた本だ。 読みやすい本だからなんとなくパラパラとながめ始めたのだけれど、 だんだんのめりこんでしまった。 …

原発の悲しみ

山口県の瀬戸内側に、祝島という小さな島がある。 先日、知人に連れられてその島を訪れた。 まわりを塀で囲まれた屋根の低い家屋が多く、路地は狭い。 海と縁遠く育った人間なら、海外にいるような印象を受けるかもしれない。 夏に台風が吹き荒れる厳しい気…

「砂嵐」について

久々に『海辺のカフカ』を読み直している 以前読んだときには心に留まらなかったのだが、 冒頭にとてもすばらしいフレーズを見つけたので、ここにメモしておきたい ある場合に運命っていうのは、絶えまなく進行方向を変える局地的な砂嵐に似ている。 君はそ…

戦争について

実家で時間をもてあまし、地方新聞に戦争について投稿した ついでにこちらにもはりつけてみます 戦争は非常事態であって「日常」とは異なる。 しかしその「非常時」へと続いているのは、この日常の単調な連続以外にはない。 「非常時」としての戦争が起こる…

この頃の(つづき)

父は白瓷をしている 先日必要があって轆轤(ろくろ)による成形の場面を見た 二十数年もその傍で暮らしていながら 轆轤の工程を正面からきちんと見るのは初めてだった 成形は制作のすべての工程の中でも、特に目を惹く工程だ 轆轤の上におもむろに置かれた緩…

この頃

夏になり、家の軒下に朝顔のため屋根まで紐を張った 不思議なもので 朝顔は、誰に案内されるでもなくその紐を自分で見つけ出し、それに巻きつき するすると屋根の方に向かってのぼっていく 朝顔は、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の話を想起させる様子で、 まっす…

加藤周一の文体

村上春樹の『1Q84』を読み終えてしばらくたつ。 この作品について、なにか自分なりに言葉を発したいと思うのだが まだうまく形にならない ある文学作品について何かを語るとは、そもそもどういうことかよくわからない、 それが理由のひとつだ 作品について言…

立つ位置について

大学時代のゼミの同輩は映画を作っていた 彼の映画が池袋シネマロサで上映されると聞いたので足を運んだ 上映されたのは『4』『mime lesson』『スパイ舌』の三本。 『mime lesson』は数年前大学のゼミで見たことがあるのだが、 今回あらためて見て、微細な部…

アジサイ

気がつけば、アジサイが満開である アジサイと「満開」という言葉の相性がいいのかどうかよく分からないが とにかく満開である 近くの図書館の下に咲いていた青と紫のアジサイがとてもまぶしかったので 思わず手を伸ばして花を観察してしまった 四枚の花びら…

やなせたかし

現在文京区の弥生美術館で「やなせたかし展」がひらかれているようです 何を隠そう、小学生時代のあだ名はアンパンマンで そんなアンパンマンファンな自分としては、行ってみないわけにはいきません お近くの方はぜひどうぞ。上野公園も近いです 懐かしくな…

生と死

『ノルウェイの森』第二章にゴシック体で強調されていて、とても目を引くフレーズがある 主人公の親友キズキの死をめぐる一節なのだが、 それほどまでに強調される意味が、あまりよくわからなかった いまだって完全にわかったとはいえない けれど初めて読ん…

曽我部恵一

「廃校フェス」で、初めて曽我部恵一をみた 彼はアコーステイックギター一本で、一人でステージにあらわれた その姿からは、いろいろなものが削ぎ落とされた成熟さのようなものが感じられた 当初は聴衆もその異様な立ち振る舞いにたじろいだようだったが、 …

最近みた映画など

ガス・ヴァン・サント『パラノイド・パーク』『MILK』 チャーリー・チャップリン『独裁者』 ルネ・クレール『巴里の屋根の下』 黒沢清『トウキョウソナタ』 北野武『アキレスと亀』 どれもけっこうよかったけれど、 ガス・ヴァン・サントは一気に好きになっ…

縮み

洗濯したばかりのジーパンに脚を通したら 思いのほか縮んでいた 裾の折り返し一回分ほどだろうか 暖かな太陽の下に、すこしさらしすぎたせいかもしれない 以前は縮むことをけっこうおそれていて いったん洗濯して形が安定してから裾を切ってもらいにいこうか…

書くことの倫理

「倫理」なんて言葉は大げさすぎるのであまりつかいたくなかったのだが この場合はぴったりくる気がするので、思いきってみた こういう場で何かを書くことについて、時折考える なぜ書くのか、なんのために書くのか、何を書くのがふさわしいのか・・・ いま…

目についたので

〈明日が確かな足どりでやってくれば この街は住みなれた街になり つと石段のうえに佇ちどまって 空と夕陽を視上げることができる〉 ふと通りすぎるこの救済の思想に押されるな いつも今日とおなじ形でおなじ異空間のなかで 出遇ったひとに呼びかけられると …

『ハウル』をみて

先日『ハウルの動く城』を見た。 キムタクの声が少々うるさすぎるし、まだナウシカやラピュタほどの思い入れは感じないが、 それにしても、けっこうよい映画だと思った とくに主人公ソフィーの描き方がとてもいい 誰しも感じているであろう、内面に秘められ…

桜の木の下で

花見の場所とりをしつつ、久々に中原中也を読んだ。 春にはあまり似つかわしくないが、やっぱりよい、 と思ったのでなんとなく引用 夏 血を吐くような倦うさ、たゆけさ 今日の日も畑に陽は照り、麦に陽は照り 睡るがような悲しさに、み空をとほく 血を吐くよ…

春になったら苺を摘みに

最近、自転車に乗るのが好きだ だいぶ前から、自転車は自分にとって単なる移動手段になってしまっていたのだが 井の頭公園の坂道を走っていて じんわりとむかし感じていた楽しさが思い出された 小さい頃は、どこにいくともなく同じ道をぐるぐると走り回って…

「父」と「子」の演劇

東京芸術劇場で、マレビトの会の『声紋都市-父への手紙』という芝居を観た。 演出を担当する松田正隆さんの、実の父親をテーマとする芝居だった。 その意味では、このプログラムはごく私的なものといえる この芝居は、サブタイトルの由来ともなっている、フ…

ジンチョウゲ

初春の空気感をいつも不思議に思っていたのだが その原因が花の匂いではないかと思い至ったのは、やっと今年のこと。 細く入り組んだ近所の路地を、水のように、甘くさわやかな匂いが満たしている 咲いている花を鼻で探してみたけれど 梅でもなく、椿でもな…

映画と希望

・セドリック・クラピッシュ『PARIS』吉祥寺バウスシアターにて 希望を感じさせてくれる映画が好きだ しかし「希望」とはなんだろうか? それは、「この世界にもう少し生きていてもいい」と思わせてくれるものだ くわえて「絶望」とは、その希望が消えたとき…

BS2で、ここぞとばかり、いろいろ映画を観ています。・黒澤明『酔いどれ天使』『醜聞』『羅生門』『白痴』『生きものの記録』・ジョン・フォード『怒りの葡萄』