最近読んだ本 (2)

村上春樹との対談本を読んだのをきっかけに、
最近、河合隼雄の書いたものに興味をもっている。
以下は小川洋子との対談 『生きるとは、自分の物語をつくること』 所収の、
小川さんによる後書きからの引用です。

いくら自然科学が発達して、人間の死について論理的な説明ができるようになったとしても、
私の死、私の親しい人の死、については何の解決にもならない。
「なぜ死んだのか」と問われ、「出血多量です」と答えても無意味なのである。
その恐怖や悲しみを受け入れるために、物語が必要になってくる。
死に続く生、無の中の有を思い描くこと、
つまり物語ることによってようやく、死の存在と折り合いをつけられる。
物語を持つことによって初めて人間は、
身体と精神、外界と内界、意識と無意識を結びつけ、自分を一つに統合できる。
人間は表層の悩みによって、深層世界に落ち込んでいる悩みを感じないようにして生きている。
表面的な部分は理性によって強化できるが、
内面の深いところにある混沌は論理的な言語では表現できない。
それを表出させ、表層の意識とつなげて心を一つの全体とし、
更に他人ともつながってゆく、そのために必要なのが物語である。
物語に託せば、言葉にできない混沌を言葉にする、という不条理が可能になる。
生きるとは、自分にふさわしい、自分の物語を作り上げてゆくことに他ならない。
                          (「少し長すぎるあとがき」より)

この箇所は、小川さんが河合隼雄物語論を要約したものだと思われる。
このような物語論を読んでみてやっと、
1Q84』前半部の、天吾による物語(小説)についての言及
(詳細には覚えていないが、小説を読むことで現実が組み換えられ、自分が変化していく、というようなもの)
が腑に落ちた気がする。