糸井重里+谷川俊太郎

12月17日土曜日、とりぎん文化会館野の花診療所10周年記念の講演会が開かれ、
糸井重里さんと谷川俊太郎さんが来られました。
その内容をここに簡単にメモしておこうと思います。
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講演はまず鉄腕アトムのテーマの合唱で始まり、
最初からなにか楽しそうなことが起こりそうな気分になりました。
僕は最近まで知らなかったのだけれど、あの歌の作詞は谷川さんだそうで、
講演会では伴奏を息子の谷川賢作さんが担当されました。
講演会のタイトルは「近くと遠くを語り合う」。
なんともふわっとしてますが、
実際には、内容をほぼ「言葉と詩」に絞って対話が行われました。
また後半では、今年の震災についても語られました。
正直にいうと、僕は糸井さんの書くものを読むと、
どうも慇懃無礼に教育されているというか、なんか手加減されてるんじゃないかという感じがして、
どうも好きになれないところがある。
けれど講演会では、
糸井さんは谷川さんとの対話のなかで生まれ出る言葉を率直に吐き出しているという感じがして、
わくわくしながら聴くことができました。
以下、個人的におもしろいと思った論点をいくつか書いてみます。
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まず、二人とも、自分はリアリストであるといっていたこと。
糸井さんは震災後のツイッターで、「一人が三日間働いて得られる額を募金しよう」と呼びかけました。
しかしその金額を考えるのにとても悩んだそうです。
今回の震災に関しては、
いくら遠方で被災者に同情したり叫び声をあげたところで、それだけでは事態はどうにもならない。
やはりすぐに被災地にカネを送ることが必要である。
とはいえまた、今回の場合、
個人が募金箱に小銭を入れたくらいでどうにかなる被害の大きさではない。
糸井さんはまずこう考えました。
でもそうかといって、どれくらいの額か、というのを具体的に提示するのはとても難しい。
そこで非常に悩みます。
そんなとき、たとえば僕なんかだと「うーん」と悩んで終わりにしてしまいそうな気がするのだけれど、
糸井さんはきっちり答えを出す。
それが「一人が三日間働いて得られる額」です。
ここできっちり数字を出してくるところがやはりすごいと思うし、
この数字にはたしかに、糸井重里という人間が賭けられているな、と感じさせる説得力があります。
他方で谷川さんも、そういわれるとけっこう意外ですが、リアリストなのだそうです。
なぜかというと、自分が生活するために詩を書き始めたから。
若いころ何気なく書いた詩に不意に値段がついてしまって、それに非常に驚き、
今でもその経験が詩作の原点となっっているのだそうです。
「詩に対しては、loveじゃないけど、お見合い結婚して、だんだん情が移っちゃったんだよ」
こんな風に谷川さんはいっていました。
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あとは、二人とも自分が書く言葉は自分のものではない、といっていたことも興味深く聴きました。
原稿を書くときには「書き手の自分」と、「読み手の自分」の二役に分かれていて、
「書き手」が書いたものを「読み手」が読んで「いい」とか「よくない」とか評価して、文章を直し、推敲していきます。
一人の人間のうちでその二役を瞬間的に交代しながら、言葉がすこしずつ作られていく。
それが創作の過程です。
けれど「書き手」が書く言葉には、たしかに自分の手が書いたものであっても、
何処か自分のものではない面がある。
たとえば自分でもなぜそう書くのかわからない言葉を、自分は書いている。
それはもはや「自分の言葉」とは言い切れないものなのではないか、
何かによって書かされているのではないか、と二人はこんな話をしていました。
ただ二人でちがっていたのは、谷川さんは書いた詩を一月もかけて推敲するのに、
糸井さんは一度書いたら書きっぱなしだということ。
ちなみに亡くなった河合隼雄さんも「書きっぱなしの人」だったようです。
別の点だと、二人とも「ふつうの人」に届く言葉を探し続けている、という点も印象的でした。
他にもいろいろと話題はあったのですが、長くなるのでこのくらいで。
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帰り際には出口で野の花診療所のスタッフさんたちが、
コションドールという店のパンなどいろいろなお土産を渡してくれました。
講演会に行ってお土産もらって帰るってあんまりないけど、
なんかいいな、わるくないなと思いました。
お土産の中に入っていた徳永進さんの詩みたいなコピーみたいな言葉が、
これまたズルイくらいよかった。


まる10ねん
心から感謝。
いっしょにいい町、
作りたい ス ね。