『ミツバチの羽音と地球の回転』

座・高円寺で、映画『ミツバチの羽音と地球の回転』を観てきた。
『ミツバチ』は持続可能な社会へ向けたエネルギーシフトをテーマとして扱った映画だ。
映画の主な舞台は、原発建設問題で揺れる山口県祝島と、エネルギー先進国であるスウェーデン
スウェーデンでは驚くような環境政策が数多く実施されており、
日本でのエネルギーシフトへの可能性を垣間見ることができたように思う。


とはいえ映画を観て、個人的に印象に残ったのは、鎌仲監督の人物描写だった。
映画で主役的に登場する島の若手、山戸孝さん、
そして孝さんの父親であり、原発建設に反対する祝島島民の会代表である山戸貞夫さん。
貞夫さんは息子たちが小さい頃から反対運動にかかわり、
奥さんも早くに亡くなってしまったため、孝さんたちの子育てを島の人たちにまかせっきりにしてきた。
そのことにはすこし後ろめたい気持ちもあるようだった。
孝さんは今、不安を抱えながらも島で自分の子供を育てつつある。
孝さんもまた、貞夫さんがたどった道と似た道を歩き始めている。
また、映画に登場する氏本さんは、島で豚の飼育をして生活している。
氏本さんは原発賛成派の父親が生きている間は原発問題を理由に島に帰らず、
父親が亡くなってから反対派として島に戻ってきたのだそうだ。
ここにも親子の間の複雑で微妙な関係が感じられた。


遠くから見れば、原発問題に関しては、
人体に有害であるかどうかとか、国家のエネルギー政策上必要かどうかとか、
そのような観念的な問題しか見えてこない。
もちろん観念的な問題も、それはそれで重要である。
しかしこの映画は、原発建設の問題が現実に降りかかった人たちの生活に、
どのように楔を打ち込み、どのようにその痕を刻み込むかを、
はっきり示しているように思われた。


ただし、この映画は決して悲観的な映画ではない。
原発問題がいかに親子の関係に影響を及ぼそうとも、
朗らかな島の人たちが山戸さん家族を支えた。
紆余曲折はありつつも、島の人たちは笑顔を絶やさない。
その笑顔が、瀬戸内の陽射しとともに、
この映画に<希望>といってもよいようなものを与えていた。