チェルフィッチュの演劇

運良く、STスポットでチェルフィッチュの新作公演、
「わたしたちは無傷な別人であるのか?」を観ることができた
「運良く」というのは、
最近、演出の岡田さんの人気が出てきて前売り券が売り切れてしまっていたからだが、
当日券でなんとかもぐりこむことができた


今回の芝居は、以前よりも台詞回しがふつうの日常会話に近いものになっていて、
岡田さん自身いっているように「シンプル」になった気がする
しかし、以前のくせのある台詞回しから生まれていた、あの独特の軽快さのようなものが失われていて、
個人的にはすこし物足りない、という感じも残る


とはいえ、やはり僕はチェルフィッチュのファンなので、
新作公演を観ることができたのは素直にうれしい


チェルフィッチュの演劇の特徴を簡単にまとめると、
まず、イラク戦争ワーキングプアの問題、衆議院選挙など、
将来歴史の教科書に載るであろうような「大きな」政治的問題の世界と、
現代の日本で生活するふつうの若者の日常世界との感覚的・身体的距離を測り、
その隔たりを見つめたうえで(両者は絶望的に隔たっている)、
二つの世界の接点を(なんとか)探ろうとしている
第二に、一度の上演の中で一人の登場人物を複数の俳優に交代で演じさせたり、
登場人物が自分の身に起こったことを現在進行形で語るのではなく(これなら普通の演劇)、
他の役者に俯瞰的にそれを語らせたり、回想的に事後的に語らせたりすることで、
確固とした現実感覚(<今、ここにいるわたし>のもの、としてのリアリティ)が
現代において揺らいでいることを表現しようとする点が特徴的である


チェルフィッチュの演劇は、
かぎられた演劇空間の中でこの二つのことを表現するのに成功していると思う
次回公演「ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶」にも期待したい