平井さん

今年は金木犀が早く咲いて、早く散ってしまった。
いつも村の祭りの日にはその匂いがするのだけれど、今年はちがった。
そのかわり黒いアスファルトの上には、
ケーキの上の粉砂糖のように、鮮やかなオレンジ色がふりかけられている。
前夜、鳥取の街では平井正也さんのライブがあって、
その手伝いをしに出かけた。
今回平井さんは家族四人で熊本からやって来ていて、
2011年の冬に熊本を訪れたとき、見ず知らずのまま家に泊めてもらって以来、
家族全員とは三年ぶりくらいの再会だった。
子どもたち二人はだいぶ大きくなっていて、顔つきもすこし変わっている。
ライヴが始まると、平井さんと同じ髪型をした弟は、席に座ってお父さんの歌を聴く。
曲の合間にお父さんに話しかけたりして、
でもちゃんと聴いている。
お姉ちゃんはガラスを隔ててお店の外の椅子に座って、
最近よく読んでいるというマンガ雑誌を読む。
お母さんはそれを外で見ていて、携帯で撮っている。
でもこちらにも歌は聞こえていたんだろうと思う。
こんなに小さくても、世界と戦っている。
それが大変そうだな、大丈夫かなと最初すこし思ったけれど、
思い出してみると自分だってそうだった(多少の差はあれ)。
だから がんばれ と、思う。
父親の姿を見て、姉と弟は何を思っているのだろう。
ひと晩で、僕は平井さんから、また何かをもらった。
いつも一緒にいる子どもたちは、もっとたくさんのものを受けとっているだろう。
ガラスから漏れる店の灯りが、人びとを包み込んでいた。