『街の人生』

最近読んで面白かった本の序文。

私たちは、自分の人生をイチから選ぶことができません。自分の性が生まれと異なること、ゲイであること、摂食障害になったことは、選んだ結果ではありません。風俗嬢は選んでなるものですが、そこに至る人生の必然的な過程というものがあります。ホームレスにいたる過程もそもそも選ぶとか選ばないといったありきたりな解釈を受け付けないような、複雑なものです。私たちはあらかじめ決められた状況に閉じ込められ、その範囲のなかで、必死に最良の選択肢を選んで、ひとりで生きるしかないのです。ここにあるのは、私たちと同じ普通の人びとが、たったひとりでさまざまな問題に取り組んだ、普通の、しかし偉大な物語です。(岸政彦『街の人生』)